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論文執筆上の注意
2000年12月10日
大石 芳裕 作成
1.基本原則
論文の書き方に決定版があるわけではない。しかし,留意すべき点はある。
以下、いくつかの点について言及するが、ここに挙げたものがすべてではないし、
これでなければならないというものでもない。
しかし、最低ラインを守らないと論文にはならない。
論文執筆上もっとも参考になるのは、各大学の「紀要」である。
つまり、大学の先生方が書かれた論文をたくさん読むことが一番よい。
タイトルの付け方、構成、論旨の展開、注の付け方、
図表出典の表記方法など、大変参考になる。
もっとも、なにごとにも甲乙はある。いい論文もあれば、
あまり参考にならない論文もある。
それも、たくさん読むうちに分かってくる。
「紀要論文」は引用する際にも評価が高いので、大いに活用しよう。
本屋さんで買う経済書・経営書(多くの大学テキストを含む)は、
ほとんどが「一般人向け」に書かれているので「論文執筆」には参考にならない。
参考文献として利用するのはいいが、「論文執筆上の注意」としては「注意」が必要である。
※明治大学経営学研究会編著『経営学への扉』白桃書房,1999年も同様
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2.論文の良し悪し
論文の良し悪しは,読者に対する「説得力」にある。
執筆者との意見の違いを超えて,読者に「なるほど!」と思わせるものは良い論文である。
そのためには,主張・研究/調査・論理・構成・文章・形式,
すべての点で優れていることが必要である。
とりわけ、学生の書くものは「形式」が整っていないことが多い。
「形式」の重要性はどんなに強調しても強調しすぎることはない。
問題意識が明確で論理の展開も素晴らしい作品が、「形式」不整備で
低い評価になることがいかに多いことか。
「形式」については別添「論文執筆要綱」を繰り返し読んでもらいたい。
「出典の5原則」など、絶対に守らなければならないルールも数多くある。
ここでは「形式」は整ったとして、論文に何が求められているか、
それを満たすためにはどうすべきか、を論じる。
執筆する学生・院生は、読者・評者が大学教員であることを十分に認識するように。
大学教員を納得させる「説得力」ある論文を書くことだ。
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3.研究の深さ
研究分野は大きく,①理論,②歴史,③現状分析,の3つがある。
もっとも良い論文は,これら3つの分野に精通しているものである。
常に,理論的,歴史的,国際的,実証的に考えることが大切。
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4.理論研究
理論研究は,テーマに関する基本文献はもちろんのこと,
最近までの主要な文献を網羅することが望ましい。
この,いわゆる「文献サーベイ」は研究論文の基本である。
当該テーマに関する国内外の主要著書・論文を通覧し,
自分の問題視角から分析・分類すること。
「学問に国境がない」ことを考慮すれば,
外国語(とくに共通言語になっている英語)の文献にも目を通すことが不可欠。
同時に,自分の頭でしっかり考えることも大切。
理論研究で陥りがちな過ちは「誰がどう言った(述べた)」という整理に終始すること。
あくまで自分の頭で考え,自分の言葉で語るようにしなければならない。
もちろん,論者の言いたいことを正確に把握することは必要だが,
それもこれも自分の言いたいことを語るための前座に過ぎない。
なお,純粋理論研究は別として,
理論研究は実証研究に裏付けられることが望ましい。
理論と実証の両方が兼ね備わっていると鬼に金棒であるが,
大事なことは理論研究している時にも常に現実を忘れないこと。
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5.歴史・現状分析
歴史・現状分析においても「文献サーベイ」は不可欠である。
従来,先達はどのように見てきたのかを整理しておくことは
自分の問題関心を明確にする(伝える)のにも有用である。
ただし,文献サーベイをしてもそれに引きずられてはいけない。
自分の頭で考え,「本当はどうなのか?」という疑問を持つことが大切である。
歴史研究や現状分析においては,どれだけ資料に当たっているかが,まず問われる。
入手が容易な第二次資料・文献・WEBデータばかりでなく,
入手困難な第一次資料・原典に出来うる限り遡及することが必要である。
しかも「総ざらい」する気で資料の収集に努めること。
新資料や企業内部データ,独自アンケートなどは高く評価される。
インタビュー等のヒヤリングも望ましいが,読者が後で参照することができないので補足的に利用すること。
現状分析では,いわゆる「業界物」に終わらないように注意すること。
「あれがこうして,誰がどうなった」というだけでは論文にならない。
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6.書く順序
論文構成には多様な方法があるが,下記の順序も参考になろう。
①テーマに沿って文献サーベイを行う
②自分の主張・仮説を提起する
③その主張・仮説を検証する(統計的処理によってか,事例によってか)
④まとめと,残された課題に触れる
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7.具体的プロセス
(1)何が言いたいのか?
論文を通して何が言いたいのかを明確にすること。
それを100字程度で書いてみればいい。
長々と説明しなければならないようでは自分の言いたいことが明確になっていない。
(2)構成についてフローチャートを書く!
論文の構成を図示することが大切。自分の頭の整理にもなる。
鉛筆書きでもいいから,白紙の紙の上に大雑把な流れを描いてみる。
後で,それぞれの箇所に必要なことを書き加える。構成は「起承転結」が大切。
(3)文献・資料を集める!
論文の良し悪しは文献・資料によって8割決まると考えるべきである。
それだけ文献・資料の収集には時間と手間がかかる。
また問題意識が明確でないと良い題材が側にあっても気付かない。
インターネットも活用しよう。
(4)論文題名を考える!
論文題名は「商品名」である。
商品の売上高が商品名に大きく左右されるのと同様に,
論文の評価も論文題名によって左右される。
良い題名は言いたいことが明確に簡潔に表現されていることである。
逆に言えば,言いたいことが明確なら良い題名がつけられる,ということ。
したがって最後につける。
(5)論文構成と文献・資料の配分
理論研究か歴史研究か,あるいは現状分析研究かによって
論文構成も異なるし,それに照応した文献・資料の配分も異なる。
しかしながら,いずれにおいても「文献サーベイ」が不可欠であるので,
文献サーベイを「起」の部分に集中しておくのが一般的方法。
そして「承」,「転」の部分に必要な文献(「起」で利用したものも含む)を配置し,
実質的な議論を展開する。
「結」の部分にはあまり多くの文献を配置せず,要約と今後の課題を述べるに留めるのが一般的。
もちろん,この配分にこだわることはないが,メリハリの大切さを学ぶべき。
(6)「寝かせ」が大切!
文(。から。まで)を書くとき,
①主語・述語の照応性
②副詞・形容詞の係り方
③対になる文章の統一性
④語尾の連関
⑤誤字・脱字
などに注意しなければならないが,推敲を十分にすること。
そのためには「寝かせ」が大切。
「寝かせ」とは,書いてからしばらく置くこと。その間に何回も見直す。